慢性腎臓病は早期発見が大事
慢性腎臓病は、早期に発見することが非常に大事な病気だと言われています。それはなぜでしょうか?
下羽先生:
「腎臓の組織は、一度障害を受けてしまうと元には戻りません。また、症状がわかりにくく、気付いたときにはすでに相当進行してしまっているということも少なくありません。腎臓の働きが悪くなってしまうと、そこから病気が不可逆性に進行していきますし、慢性腎臓病を予防する方法も今のところ、わかっていません。
つまり、慢性腎臓病については、早期発見し、治療やケアを開始して進行を遅らせるしか対処法はないのです」
では、早期発見するために、飼い主はどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか?
下羽先生:
「まずは、ペットのオシッコの量を日頃からチェックしておくことが大切です。慢性腎臓病になると多くの場合、オシッコの量が増え、色が薄くなってきます。普段と違うと感じたら、一度動物病院で検査してもらうと安心です。
また、水を飲む量も増えます。水をたくさん飲むのは良いことだと思っている飼い主の方も多いかもしれませんが、飲み過ぎるのは実は危険なサイン。1日の飲水量が体重1kgあたり100ml以上だと、どこかに異常があるかもしれません。
動物病院で日常から定期的に健康診断を行っていると、血液検査でクレアチニンや血液尿素窒素、リン、カルシウムなどの腎臓に関係する数値をモニターできるので、早期発見につながります。シニア期以降は、定期的な健康診断がおすすめです。」
慢性腎臓病の治療法
慢性腎臓病が見つかった場合、病院ではどのような治療が行われるのでしょうか?
下羽先生:
「その子の症状や病態のステージに合わせて投薬などの必要な治療を行います。脱水の補正のために点滴治療を行うこともあります。点滴には、腎臓の血流量を増やし老廃物の排出を促進するという効果もあります。
また、飼い主さんへ向けて食事管理や飲水量を増やすなどの生活上の指導も行います。慢性腎臓病の場合、フードに含まれるタンパク質の量によっては腎臓に悪影響を与える可能性があります。さらに、リンの体内への蓄積をなるべく減らすため、リンを抑えた食事にする必要があります。腎臓への負担を減らすために、日頃の食事を腎臓病用の療法食に切り替えてもらうよう飼い主さんにご説明させていただきます。また、療法食と並行して、リンを吸着してくれるサプリメントなどを使用することもあります。」
下羽先生:
「慢性腎臓病には4つのステージがあり、病気の進行に伴いステージが上がっていきます。臨床症状も徐々に悪化していきますので、必要な治療もだんだん増えていきます。では、その治療を全部行えば十分かというと、それでも病気の進行を完全に止めることはできません。特に慢性腎臓病のステージが上がるほど、そこから進行を抑えることはより難しくなります。手遅れになる前に、また大切な家族であるワンちゃんやネコちゃんが長く元気で過ごせるように、慢性腎臓病と診断されたら早めに病院で腎臓のケアや治療をスタートすることが大切です」
慢性腎臓病は、発見されればその後一生付き合っていかなくてはならない病気です。長い闘病生活を送る子も多くいます。それだけに、ペットにとっても、飼い主さんにとっても治療の負担はできるだけ軽いほうが良いのは当然のこと。愛犬・愛猫と少しでも長く一緒に過ごすためにも、慢性腎臓病は早めに発見し、ケアをしてあげましょう。
獣医にかかるタイミング
早期発見が大事だと繰り返しお伝えしてきましたが、では、いつの段階で動物病院に行くのが最適なのでしょうか?
下羽先生:
「定期的に健康診断を行っている子であれば、早期に発見することができると思うのでそれほど心配ありませんが、健康診断を行っていない場合は、慢性腎臓病の症状で当てはまるもの、気になることがあれば早めに病院で診断を仰ぐようにしましょう。
自己判断で放っておくのは禁物です。慢性腎臓病は血液検査や尿検査で発見できるので、気になる症状があるならば、まずは検査を受けてみましょう。
慢性腎臓病には、予防法がないと言われています。そのため、飼い主さんは、日頃からペットたちの様子をよく見ていただき、変化に早めに気付けるようにすることが大事になります。オシッコの量や色、水をどれだけ飲んでいるのか、食欲はあるか、体調が悪そうな様子はないか、嘔吐していないかなど、よくチェックしてあげましょう」
慢性腎臓病の症状は見逃されがちですが、それに気付けるのは飼い主だけです。ペットたちが健やかに、楽しい毎日を送るためにも、飼い主はしっかりとペットたちの様子を見て、異変に気付けるようにしましょう。
獣医師のご紹介
下羽 麻里奈
バイエル薬品株式会社 動物用薬品事業部
CAビジネス統括部
学術 獣医師 下羽麻里奈
・麻布大学 獣医学部卒業
・臨床獣医師として動物病院にて勤務。
・現在バイエル薬品株式会社 動物用薬品事業部 学術
著者情報
UCHINOCO編集部
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