高齢猫に多い慢性腎臓病
犬や猫は、7歳を過ぎると中高齢だと考えられています。これ以降は「シニア期」とも呼ばれ、様々な身体のケアにも力を入れる必要がある時期です。腎臓の働きも、当然、年齢を重ねるごとに低下していき、15歳以上の猫では実に約30%が慢性腎臓病を発症しているというデータもあります。また、犬も、15歳以上では10%以上が腎臓病を発症していると言われており、決して他人事ではありません。
下羽先生:
「犬や猫も年齢が上がるほど、腎臓病の発症率は上がります。慢性腎臓病は、猫に多い病気だと言われています。その原因はまだ全てが解明されたわけではありませんが、一つには、猫は「ネフロン」という腎臓を構成する特殊な構造体の数が少ないからだと言われています。
しかし、必ずしも猫だけの病気ではなく、犬にも起こりうる病気です。
犬や猫でも膀胱炎になりやすかったり、結石を持っている子がいます。結石を持っている子は、普通の子よりもオシッコに細菌感染を起こしやすいと言われています。尿管は腎臓とも繋がっているため、感染が逆行性に腎臓にまで達してしまったり、結石でオシッコが詰まってしまい、腎臓まで障害を及ぼしてしまう可能性もあります。こうした問題が結果的に腎臓に悪い影響を与えてしまうこともあるので、結石症や膀胱炎を繰り返している子は特に気をつけたほうが良いでしょう。
高齢を迎えた犬猫では、腎臓のケアは大切です。健康に長生きしてもらうためにも、飼い主さんが気遣ってあげましょう」
慢性腎臓病になるとどんな症状が現れる?
腎臓はからだの中の老廃物や余分な水分を体外へ排出し、血液をきれいにする働きをしています。また、ホルモンや酵素を産生し体内の様々な機能のバランスを調整しており、全身の状態に影響を与える大切な臓器です。
慢性腎臓病とは、少なくとも3ヶ月間腎臓の機能が低下した状態が続いている状態を指します。
下羽先生:
「慢性腎臓病は一目でわかるような特異的な症状がないため、飼い主さんであっても気付きにくい病気です。
水をたくさん飲み、オシッコをたくさんする。尿の色が薄い。食欲が落ちてきて、元気がなくなる。嘔吐の回数が増えた。こういった症状が特徴ではありますが、これは必ずしも腎臓病だけの症状ではなく、ほかの病気でも起こり得ます。飼い主さんが日頃から愛犬・愛猫の様子を観察してあげることが早期発見につながります」
動物は痛みに強い生き物です。特に、猫は多少体調が悪くても飼い主の前でぐったりした姿を見せることは少ないのです。それに加え、慢性腎臓病は症状が現れにくく、飼い主が症状に気づいた時には腎臓の7割以上の機能が失われているとも言われます。
下羽先生:
「慢性腎臓病が進行すると、リンが体内に蓄積し、上皮小体からホルモンが過剰に分泌されていきます。また、体の外に窒素物や尿毒素が排泄できなくなることで、尿毒症と呼ばれる状態に陥るとも言われています。その結果、食欲の低下や沈鬱、貧血、悪心など多岐にわたる症状がどんどん進行してしまいます。
慢性腎臓病は一方通行で進行し、完治することはありません。ただし、早期に発見すれば、悪化速度を遅らせたり、生存日数を延ばすことも可能かもしれません」
慢性腎臓病を悪化させる「リン」
慢性腎臓病は人間も動物も同じで、日々の食事管理が非常に重要です。
人間の場合には、一般的に適切なエネルギーを摂取しつつも、塩分や水分、さらにはカリウムやリンを控えるのが良いとされています。
犬猫の場合も、タンパク質やリンの摂取量に気をつける必要があります。リンとは、細胞膜や遺伝子を構成する物質であり、エネルギーを作り出すのに必須の栄養素です。また、うまみの成分や食品添加物としても利用されているため、食事には必ずリンが含まれています。
食事で摂取したリンは腸で吸収され、不要な分が腎臓から尿へ排泄されます。健康な時には、このように体内の量を調整しているのですが、腎臓の機能が低下すると、不要なリンを尿に排泄することができなくなり、体内にリンが溜まりやすくなってしまいます。リンが体内に増えすぎると、様々な障害が出てきます。そして、腎臓病もさらに悪化してしまうのです。
▲リンの吸収と排出
下羽先生:
「慢性腎臓病をなるべく悪化させないためには、リンの摂取量を制限することが非常に大切です。人間の場合も、リンを吸着する働きのあるお薬を飲みますが、犬猫も同様に食事療法やサプリメントで体に吸収されるリンを制限します。
また、昨今では、尿毒素も腎臓病を悪化させる原因の一つであると考えられています。腎臓の機能が低下してしまうと、腸管で発生した毒素を尿中に排泄できなくなり、血液中の毒素が増加し、尿毒症になることがあります。
悪玉菌が腸内で増えることが原因で、尿毒素の産生量が増加してしまうこともわかっており、人の医療の研究では、腸内環境を整えることが腎臓病の進行を抑える鍵の一つなのではないかといわれています。
ですので、腸内の善玉菌を増やし、悪玉菌を減少させるような乳酸菌のサプリメントの給与などを行ってみるのも良いかもしれません」
▲犬や猫のシニア期に多い「慢性腎臓病」についてお話してくださった下羽先生。
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UCHINOCO編集部
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